【FILM REVIEW】『ラストエンペラー』生き方を選べない人生

『ラストエンペラー』

生き方を選べない人生

作品情報

『ラスト・エンペラー』(イタリア、イギリス、中国/1987年/163分/原題:THE LAST EMPEROR)

監督:ベルナルド・ベルトルッチ
脚本:ベルナルド・ベルトルッチ、マーク・ペプロー、エンツォ・ウンガリ
出演:ジョン・ローン、ジョアン・チェン、ピーター・オトゥール、坂本龍一、デニス・ダン、ヴィクター・ウォン、高松英郎、マギー・ハン、リック・ヤン、ヴィヴィアン・ウー

4

おすすめポイント

イタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチが描く、中国最後の皇帝、愛新覚羅溥儀の物語。2歳で皇帝となり、戦犯として捕らえられた彼の数奇な人生に心が動かされる。アカデミー賞9部門受賞。ベルトルッチの無茶ぶりに答えながら作曲された坂本龍一の楽曲が見事。

あらすじ

清朝の皇帝
1908年、先代、光緒帝の死により、溥儀は2歳で清朝の皇帝になった。理解し難い人選ではあるが、皇帝をも操る影の権力者・西太后の決定には誰も逆らわなかった。こうして、皇帝という存在は形式上は残ることになった。しかし、その威光は紫禁城の中に限られたものであり、城の外では君主制から共和制への変革を目指した辛亥革命が進んでいた。

革命の結果、皇帝を退位した溥儀は清室優待条件により、紫禁城の中でのみ、皇帝として扱われる歪な存在となっていた。まもなく、乳母のアーモとも離れ離れになった溥儀が心を許せる人はいなくなってしまった。そんな彼のもとに、スコットランド出身の家庭教師レジナルド・ジョンストンがやって来る。ジョンストンから西欧の文化を学んだ溥儀は朝廷の改革を進めていく。北京政変
2人の妻と結婚した溥儀は、紫禁城内での生活を続けていたが、1924年の北京政変により、紫禁城からも追放されてしまう。他国に庇護を求めるも、”中国皇帝”の肩書は重く、なかなか受け入れ先は決まらなかった。受け入れに手を挙げたのは、当時のアジアで絶大な影響力を持った日本だった。

満洲国の皇帝
1931年、日本との交流を深める溥儀と、正妻の婉容だったが、側室という歪な立ち位置に耐えかねた文繡(ぶんしゅう)は溥儀の下を去る。また、家庭教師のジョンストンも役目を終え、帰国したことで、溥儀が頼りに出来るのは婉容と日本軍だけになった。1934年、日本軍の甘粕の誘いに乗る形で、溥儀は中国支配を強める日本が設立した満洲国の皇帝となった。再び権力を手にした溥儀だったが、事実上、満洲国を支配しているのは甘粕率いる日本軍であった。婉容がアヘン中毒となり、皇帝としても、1人の人間としても溥儀の頼れる人物は居なくなってしまった。そして、第二次世界大戦が始まり、日本軍が敗戦すると、溥儀は戦犯として追われる身となった。

囚人から一般人へ
逃走中にソ連の捕虜となった溥儀は、中国に引き渡され、9年の間囚人として過ごす。満洲国や日本軍について執拗な尋問を受け続けていた溥儀は、上海爆撃や南京大虐殺の映像を見る。その後、溥儀は全ての罪を背負うように、中国政府が提出した告発状にサインをする。1967年、文化大革命の進む中国では、皇帝に追従する人間は共産党の反対勢力として、厳しい弾圧にあっていた。庭師として、ひっそりと暮らしていた溥儀は、博物館となった紫禁城に忍び込む。守衛の息子に見つかった溥儀は、かつて玉座に隠したコオロギの壺を渡す。次の瞬間には溥儀は消え、誰も居ない玉座だけが、観光客の注目の的になっていた。

感想

現代中国を知るきっかけになる作品

時代設定は1908年〜1967年の中国。アジアの眠れる獅子と恐れられた中国は、アヘン戦争(1840〜42)でイギリスの侵略を受けた。中国は、その実力が露呈したことで、帝国主義国家から狙われる存在となった。
強い中国を目指すことが急務となる流れで、「扶清滅洋」(強い中国、西洋を滅ぼす)を掲げた義和団事件(1900〜1901)が起きた。しかし、日本やロシアなど列強8ヶ国が、各国の公使館員保護を目的として、共同出兵する事態となった。

溥儀はこうした大きな流れに巻き込まれてしまった。強い中国を目指す中で、皇帝は不要とみなされたが、長い歴史を持つ”中国皇帝”という地位は扱いに困る歪なものだった。そういった意味で、まだ幼い溥儀にとっては筋の通らない””皇帝””という扱いは苦痛の種でしかなかっただろう。

中国が列強の侵略を受けた時代

中国は長らく、アジアの眠れる獅子と捉えられており、欧米は中国の力を警戒していた。しかし、イギリスが仕掛けたアヘン戦争により、実力が露呈し、中国は帝国主義国家の侵略を受けることになった。

外圧は国内の改革を促し、中国は強くなるために新しい政治体制を必要とした。この大きな流れに飲まれる形で、皇帝という存在は不要なものになっていった。清朝の皇帝時代の溥儀の不遇な人生は列強の侵略が発端となっているといえるだろう。

生き方を選べない人生

物語は溥儀が清朝、満洲国皇帝だった時代と第二次世界大戦終戦後、戦犯となった時代の2部構成になっている。

いずれの時代も、溥儀には自由が無かった。模範囚として刑務所を出て、植物園の研究員として過ごしたほんの僅かな時間だけ、彼は一般人として自由に過ごせていた。

貧困で生きる術が無いほど追い詰められている人々を描いた作品は多くあるが、権力者の不自由を描いた作品は限られる。(そのうち、日本の皇族のドキュメンタリーが作られたりするのだろうか。)

色々な形の不自由があるのだと、教えてくれる一作だった。

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