コロナと毒親に潰された未来
作品情報
『あんのこと』(日本/2023年/113分)
監督:入江悠
脚本:入江悠
出演:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり
配給:キノフィルムズ
4
あらすじ
幼少期から母親に虐待を受け、小学校を不登校になっまった少女あん。祖母と母親を養うため、売春を始め、薬物依存にも陥ってしまう。そんな彼女を救ったのは薬物防止プログラムを開く刑事の多々羅だった。
多々羅は、知人の記者、桐野と共に、あんが自立出来るよう、仕事を斡旋し、住む場所を用意した。祖母の介護が出来るようになりたいと介護士を目指すあんは介護施設で働きながら、学校にも通うようになり、止まっていた時間を取り戻し始めていた。
一方のあんは、新型コロナウイルスが広まったことで、介護施設を休職せざるをえなくなり、学校も休校になってしまう。
頼る相手や居場所が無くなったあんのもとに、子連れの母親が押し入ってくる。見ず知らずの母親から、まだ幼児のハヤトを預かることになったあんは、子育てを始める。ハヤトとの生活にも慣れ始めた頃、母親があんのもとを訪れる。祖母がコロナに罹ったことを理由に、家に帰るよう母親に説得されたあんはハヤトを連れて実家に帰る。
家に着いて豹変した母親は売春で金を稼がなければハヤトを殺すとあんを脅す。あんは仕方がなく、身体を売るが、家に帰るとハヤトは居なかった。ハヤトは児童相談所に連れて行かれてしまった。悪びれる様子のない母親に、あんは包丁を向けるが刺すことは出来なかった。
再び薬物に手を染めてしまったあんは、薬物をやめていた証である日記を燃やし、自殺する。自殺の現場を訪れた桐野は、多々羅にあんの死を伝える。多々羅はあんが薬物をやめていたことを繰り返し落涙する。一方、ハヤトの母親は児童相談所からハヤトを取り返していた。あんがハヤトのアレルギーに配慮していたことを知り、あんに感謝する。
感想
可能性を潰された顔
映画の冒頭、河合優実演じる、あんは絶望的な顔で独り路地を徘徊する。この顔はここからどう変わっていくのか。セーフティーネットから漏れてしまったり、自ら道を踏み外す登場人物はよく目にするが、あんには夢があり、前向きに生きようとしている。
物語は、あんを支える人々が居る世界と居ない世界の二部構成になっている。前半は毒親などの不安の種を抱えながらも、社会のセーフティーネットが機能して、あんが夢を叶えるためのレールに乗っていく様子が描かれる。カサカサの唇とコケた顔はまだ貧しいことを窺わせるが、はにかんだ笑顔には希望が見て取れる。しかし、それもサポートする人が居てこそだった。
後半、サポートが無くなり、突如自立を迫られるあんは、無防備でありながら生きることを諦めない。しかし、残酷にもコロナが彼女の居場所を奪ってしまう。立ち直りかけていたところで心を挫かれるのはあまりにも辛い。そして、自分ではどうすることも出来ないことで心を病むのは、薬をやっていてもいなくても変わらない。誰もがあんと同じ境遇を体感しているはずだ。だからこそ、誰かをはにかんだ笑顔にさせることが出来る人になりたいと思う。
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