『風が吹くとき』庶民視点で描かれる放射能の恐怖

庶民視点で描かれる放射能の恐怖

作品情報

『風が吹くとき』(イギリス/1986年/85分/原題:WHEN THE WIND BLOWS)

監督:ジミー・T・ムラカミ
脚本:レイモンド・ブリッグス
出演:ジョン・ミルズ、ペギー・アシュクロフト

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あらすじ

第二次世界大戦後のイギリスの田舎で暮らす老夫婦のジムとヒルダ。図書館で核戦争対策のパンフレットをもらったジムは、簡素な核シェルターを作り始める。ヒルダもジムに急かされ、文句を言いつつも、食料などを始める。のどかな時間を過ごしていた2人だったが、ラジオからミサイル発射の報せが入る。

報せからわずか3分で、2人の家は爆風に巻き込まれる。シェルターは無事だったが、大事にしていた家具や写真は破壊されてしまった。その惨状に文句を言いつつも、被爆後1日目はパンフレットに書いてある通り、シェルターの中で、今後の対策について話し合いながら過ごす。
被爆から2日目。狭いシェルターの中で過ごすことに耐えかね、2人は部屋の掃除を始める。外は灰色の世界となり、家の中は瓦礫が散乱していた。まるで違う世界になってしまったが、第二次世界大戦を生き抜いた2人はすぐに、救援が来ることを期待する余裕を持っていた。爆風で備蓄していた水が無くなってしまったが、2人は降り出した雨を飲み水にして凌ぐことにした。
一向に救援は来ず、静寂に包まれた世界で、2人の身体に異変が現れる。吐き気と熱に襲われ、食欲も無くなったジムとヒルダだったが、彼らの年齢ではよくあることだとジムはヒルダを励ます。
数日後、出血や脱毛が始まり、身体中に斑点が出始める。寝たきりになるほど弱っていた2人は、新たな核兵器に備えて紙袋を被り、眠りにつく。気を紛らわすため、ジムは神へ祈りを口ずさむ。2人はそのまま、永遠の眠りにつくのだった。

おすすめポイント

イギリスの作家レイモンド・ブリッグズによる漫画のアニメ化作品。田舎に暮らす老夫婦を襲う放射能の恐怖を描いている。主題歌『When the wind blows』はデヴィッド・ボウイが作詞・作曲をつとめている。実写とミニチュアを織り交ぜた多彩なアニメ表現にも注目。

感想

戦争の始まり

2022年、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。その始まりはあまりにあっさりとしたもので、遠く離れた土地で戦争が始まったことは自分の身に迫るものではなかった。しかし、爆撃の様子や、破壊された街、道路に転がる死体を見て、一気に現実感が増してくる。

この作品は仕事を引退し、田舎暮らしを楽しむ老夫婦ジムとヒルダの2人だけが登場する。2人とも第二次世界大戦を経験した世代だが、戦争の捉え方がまるで違う。ジムは戦争に備えるため、あれこれと行動を起こす。一方、ヒルダは戦争よりも今の生活に目を向けている。

私の戦争に対する考え方は若干ヒルダ寄りで、戦争が起きると常に考えていては日常を楽しめなくなると思ってしまう。しかし、先述したウクライナ侵攻を考えると、起きてからでは遅いと考えざるを得ない。戦争は気づいた時には始まっている。さらに、場合によっては、始まりとほぼ同時に、終わっている可能性すらあるのが核兵器に依存した今の世界だ。

現代を生きる人々にとっての核兵器

仮に今、核兵器が使用されて、生き残ったとしたらジムやヒルダのように、放射能に汚染された雨水を飲むことも、すぐに外に出ることもしないだろう。原爆と原発事故を体験した国で生きているため、被曝の恐ろしさは少なからず理解しているつもりだ。

とはいえ、「じゃあ何をして備えるのか」と言われると、特に行動には移さないだろう。買いだめは多少するかもしれないが、核シェルターを作ることはしない。

積極的な対策を打たないのは、「始まったら、終わり」というなかば諦めにも近い感覚があるからだ。第三次世界大戦を描いた作品は数多くあるが、その後に人類が反映する世界はほとんど描かれていない。「始まったら、終わり。だから使ってはいけない」それが現代を生きる人々にとっての核兵器の共通認識だろう。

核兵器で守られた平和を生きる

現代の感覚とは異なり、ジムとヒルダは戦争に対して楽観的だ。ジムはイギリスは絶対に勝つと考えているし、ヒルダは放射能なんて目に見えないものに怯えることはないと考えている。

しかし、この作品が作られて約30年経ち、世界は変わった。核兵器が拡がり、絶対の勝者は居なくなり、被曝の恐ろしさは世界中の共通認識になっている(はず)。

使えば一発アウトな兵器で保たれている歪な平和の上に私たちは生きている。そして、始まったら最後、ジムとヒルダと同じ運命を辿ることになることを知りながら生きる私たち。もっとミクロな問題は山積みなのは承知しているが、マクロな問題として核兵器に依存した平和からの脱却を目指さなければ、いつ終わってもおかしくない世界を生きるしかなくなるだろう。

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