【映画祭】SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023 長編部門コンペティション入選6作をレビュー

【映画祭】SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023 長編部門コンペティション入選6作をレビュー

2023年7月15日(土)から開催されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023

“新たな才能を発掘し、育てる映画祭へ”をコンセプトとした同映画祭の長編部門入選作品をレビューする。


【総評】

精神的な悩みを抱えている人物がキーパーソンになる作品が多く、それらの結末は”価値観の多様化”が広がっていることを感じさせる。『繕い合う・こと』では、”兄弟”という比較されることから逃れられない関係性を、父の死の受け入れ方と絡めて描いている。『ブルーを笑えるその日まで』では、クラスに馴染めない少女が、不思議な力で親友を見つけることで、心を回復していく様を描いている。一方で『地球星人(エイリアン)は空想する』では同じように学校生活に馴染めない少女が、「宇宙人」と出会ったことで、新しい生き方を見つける。どちらの少女も共通点のある選択をするのだが、価値観の多様性を追求すると深く納得出来る選択になっている。

運命の誰かとの出会いで、人生は全く違う方向に動き出す。『泡沫』は自由に旅をするロシア人学生と、家業を継がされる運命にある名家の息子の出会いを描いている。全く違う価値観が混じり合う刺激的な旅(時に、薬の力)が、自分の中に隠れていた本音を引き出していく。一方、そう簡単に人は変わらないと思わせるのが、『十年とちょっと+1日』だ。10年ぶりの再会という一大イベントのはずなのに、派手なことは何も起こらない。しかし、誰かと語り合って、自分の生き方と改めて向き合うきっかけになっただけでも、十分な出来事なのかもしれない。

一つの価値観を妄信、曲解することは悲劇を生むことになるかもしれない。『ヒエロファニー』は誰かの心を救おうとする者の苦悩を描いている。人間は決して、万人を苦しみから救うことは出来ない。では、何に助けを求めればいいのか。妄信の末にとんでもない展開が待っているこの作品は、善も悪も包括した一本に仕上がっていたように思う。


【各作品短評】※一部ネタバレあり

『地球星人(エイリアン)は空想する』

2023年 / 日本 / 99分
監督:松本佳樹
出演:田中祐吉、山田なつき、アライジン、中村更紗、村松和輝、星能豊、ひろえるか、小夏いっこ、町田英太朗、西村優太郎、大城規彦、西よしお、藤澤克己

宇宙人による誘拐事件の真相は…

あらすじ

正義感の強い雑誌記者の宇藤は、UFOで有名な石川県羽咋市に発生したミステリーサークルの取材に向かう。宇宙科学博物館での取材中、宇藤は乃愛という少女に出会う。彼女はかつて、失踪した経験があり、それは宇宙人によるものだと証言していた。しかし、その失踪の裏には彼女だけが知る「宇宙人」との出会いがあった。

乃愛はカルト教団を告発し、田舎で暮らしている男と出会った。辿り着いた宇藤は自分の進むべき道を選択する。実際に、UFOで町おこしをしている石川県羽咋市が舞台になっており、宇宙科学博物館の魅力が詰まったご当地ムービー的要素も含まれている。ただ、それはあくまでおまけ的な要素で、作品に込められたメッセージには深く納得した。
感想

『新聞記者』や『凶悪』など、記者が主人公の作品では、その記者の正義をどこまで通せるのかが試されるシチュエーションが多い。本作は、『クリーピー 偽りの隣人』のような事件を調べる側の倫理観を問われる要素も含まれている。正義や倫理は人それぞれで、特に正義については、自分をどこまで犠牲に出来るのかが、問われてくる。

しかし、犠牲を払って追い求めた真実は、当事者にしてみれば踏み込んで欲しくない領域かもしれない。誰にとっての真実なのか、それを真実としたい記者側のエゴなのではないか。

自分の道を進むことに決めた乃愛と向き合ったからこそ見えてきた新たな問いが宇藤の正義を揺さぶりをかける。人間が協調していくためには、各人が大小様々な妥協をしていくしかないと改めて考えるきっかけになった。

ストーリーについて、乃愛が「地球人難しいな…」と思った理由については深く描かれていない。人物の行動原理を答え合わせのように埋めていくような脚本は、良くも悪くも人の可能性を狭めているような気がするので、個人的に好きではない。そういった点で、乃愛は何を考えているのかわからないミステリアスな存在であり続けた。作品の軸をぶらさない姿勢も感心するポイントだった。

『ヒエロファニー』

2023年 / 日本 / 70分
監督:マキタカズオミ
出演:伊勢佳世、古屋隆太、鄭亜美、工藤孝生、波多野伶奈、橋本拓也、朝香賢徹

本当に予測していなかった展開に面食らう

あらすじ

臨床心理士のヒウラは娘を自殺で亡くした。図書館でカウンセリングのボランティアを始めた彼女のもとに、神父のハセガワがやって来る。ヒウラは殺人衝動に苦しむ信徒を救うため、ハセガワの教会でカウンセリングの手伝いを始める。しかし、信徒が自殺したことで、事態は急変していく。

自分との会話が自殺のきっかけになっていると信じてしまったイマイは自傷行為で贖罪を図る。ハセガワの方も腹に奇妙な腫れが現れ、徐々に顔のような腫瘍に形を変えていく。これを神の顕現と捉えたイマイはハセガワの寝ている隙を狙い、腫瘍を切除する。ハセガワは死に、自らの肉体に腫瘍を移植したイマイが新たな宗教を創始する。
自分とした会話が自殺のきっかけになっていると信じてしまったイマイは自傷行為で贖罪を図る。ハセガワの方も腹に奇妙な腫れが現れ、徐々に顔のような腫瘍に形を変えていく。これを神の顕現と捉えたイマイはハセガワの寝ている隙を狙い、腫瘍を切除する。ハセガワは死に、自らの肉体に腫瘍を移植したイマイが新たな宗教を創始する。
感想

臨床心理士と神父、どちらも人の心を救う仕事だが、彼ら彼女らの心は誰が救えるのだろうか。そんな問いについて考えさせるストーリーなのだが、予想外の展開が待っていた。大胆な2部構成で、ある意味前半を捨てるようなちゃぶ台返しぶりが心地良い。

誰かを救おうとする人間は、救えなかった誰かのことも背負って、その任務を全うする覚悟が必要だ。その意味では、ヒウラもハセガワも覚悟があった。ヒウラは娘を、ハセガワは信徒を救えなかったトラウマとともに生きている。

誰かを救おうと積極的に動くほどの覚悟は自分には無い。だが、イマイのような狂行をしないようにすることなら、なんとか出来そうだ。人生のハードルを下げてくれたイマイにはある意味感謝。

『繕い合う・こと』

2023年 / 日本 / 99分
監督:松本佳樹
出演:田中祐吉、山田なつき、アライジン、中村更紗、村松和輝、星能豊、ひろえるか、小夏いっこ、町田英太朗、西村優太郎、大城規彦、西よしお、藤澤克己

“兄弟”は別の人間なんだ

あらすじ

父が死んで5年目の年末。金継ぎ職人を継いだ兄は父の死を受け入れられない無職の弟と、遺品整理について喧嘩をしてしまう。

行き場の無くなった弟は、先輩の家にお邪魔する。先輩の妻が出産間近となり、大急ぎで兄を呼んだ弟は先輩家族と共に病院へ向かう。無事赤ちゃんが産まれ、新年を迎えた兄弟。兄は重要な金継ぎの仕事を終え、弟を送り出すのだった。
感想

固定カメラを用いたドキュメンタリータッチの長回しで、ワンシーンワンシーンを落ち着いて楽しめる。特に、行き場のない弟をなんとか、泊めてあげるために、先輩が出産間近の妻に土下座で謝るシーンのカメラはベスポジだと思う。

父の仕事を継いで、自営業をなんとかこなしている立派な兄と、定職につかずに奔放な生き方をする弟のくっついたり離れたりを繰り返す感じは、繰り返し使われるテーマではあるけど、何故か見ていて飽きがこない。出産というコントロール出来ない一大イベントを共に乗り越えることが仲直りのきっかけになる展開で、『きっと、うまくいく』を思い出した。

『ブルーを笑えるその日まで』

2023年 / 日本 / 100分
監督:武田かりん
出演:渡邉心結、角心菜、夏目志乃、片岡富枝、丸本凛、成宮しずく、佐藤ひなた

自分が自分で居られる場所へ

あらすじ

クラスでいじめられている女子中学生アンは、老婆が営む商店で万華鏡をもらう。万華鏡を覗くと封鎖された屋上の扉が開き、同じ中学のアイナと出会う。

夏休みを共に過ごすことで、アンは孤独と将来への不安を打ち明ける。アイナはアンの心の穴を塞ぐため、抱きしめる。いじめっ子に万華鏡を壊され、アイナに会えなくなってしまう。老婆に相談し、ダイナマイトを調達したアンはアイナと再会する。学校を爆破するため、屋上で導火線に火をつける。ダイナマイトは噴射花火で、気づいた時にはアイナは消えていた。後日、アンは再び封鎖された屋上を見て、アイナに会うために学校から逃げ出す。
感想

ここ数年で見た『少女邂逅』、『最期の星』、『永遠が通り過ぎていく』を思い出した。自分を救ってくれる誰かと巡り合って、なんとか生きていく。その誰かは現実の人とは限らない。自分を肯定してくれるもう1人の自分を作り出すのにも似ているかもしれない。そうしないと心が保てない人が実際増えているのかもしれない。そうした気持ちが少しずつ形を変えて、語り継がれている。

商店の老婆が良い味を出している。ジブリに出てくるイカした老婆と週刊ストーリーランドの老婆が混じったようなキャラ設定だ。

『泡沫』

2023年 / 日本 / 125分
監督:アドリアン・ラコステ
出演:中崎敏、アリサ・ワイルド、津嘉山正種、野村宏伸、赤間麻里子、鎌滝恵利、遊屋慎太郎、田中豊、亀岡園子

決められた人生を与えられた男の選択

あらすじ

建築家として財を成した祖父のもとに、孫の清次郎が帰ってきた。半年ぶりにメキシコから帰国した清次郎だったが、親戚一同には快く受け入れられない理由があった。清次郎は自殺未遂を犯したところを、ラナというロシア人に助けられる。

ラナは写真を専攻しており、廃墟を撮ってまわっていた。一緒に旅をする中で、親しくなっていくが、不法侵入で警察に追われる身となる。ラナの車は盗難車だとわかり、誤魔化しきれなくなった清次郎は警察官に怪我を負わせてしまう。後に引けなくなった清次郎はラナと共に次の廃墟に向かう。道中、清次郎はLSDを服用し、川で戯れていたところを警察に捕らえられてしまう。川に入っていたラナを呼ぶが、彼女の姿は消えていた。父の力で、罪を揉み消した清次郎は薬物治療を受ける。メキシコ旅行は口実であり、実際は半年間の入院生活を送っていた。末期癌の祖父から、強制的に会社の後継ぎに指名された清次郎だったが、その頼みを断る。
感想

ドラッグでトリップする描写や、廃墟の風景など映像の切り取り方が新鮮。それは物語においても同じで、ラナというキャラクターが、物事の価値観を広げている。心霊番組で取り上げられる廃墟は、ラナにとって被写体となっている。ドラッグもやるし、飲酒運転も窃盗もする。名家に生まれ、ルールに縛られた環境で育った清次郎にとって、ルールから逸脱し放題のラナは(正解不正解は抜きにして)生きる選択肢を増やしてくれている。

演出や、メッセージは違うけれど、全編モノクロで、自分の境遇に思い悩む青年という設定はPFFの『瀉血』を思い出した。


『十年とちょっと+1日』

2023年 / 日本 / 82分
監督:中田森也
出演:仲野修太朗、金子初弥、渋谷采郁、長森要、古林南、杉本惠祐、広島有、やまぎしゆうや

10年経っても変わらないもの

あらすじ

10年ぶりに再会したハラサキ、カオリ、マホ。マホの婚約者のイクオと出会う。イクオはマホに精神的なDVを受けていた。彼女と別れたハラサキ。必要性で恋愛をするカオリ。自己犠牲でマホを愛するイクオ。かつて、良からぬ噂をされていたマホ。ズケズケ物を言うハラサキ。浮気されても何も感じないカオリ。自分を責めすぎるマホ。1人になったハラサキ。

感想

10年ぶりに再会した男女の会話劇。FIXとスローなカメラワークが会話のテンポとマッチしており、最後まで話を聞くことは出来る。何か起きそうで何も起こらず、凪状態が続いているように見えるが、各登場人物の心はざわめいているように感じた。

自分を肯定出来ないマホは他人と近づくことに悩んでいる。一方で、カオリは他人との埋まらない距離感を感じている。この対照的な2人が語り合う空間が一番心地よかった。



【受賞結果】

SKIPシティアワード
『地球星人(エイリアン)は空想する』監督:松本佳樹

優秀作品賞[長編部門]
『地球星人(エイリアン)は空想する』監督:松本佳樹

観客賞[長編部門]
『ヒエロファニー』監督:マキタカズオミ

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