【映画祭】下北沢映画祭2022 コンペティション入選9作をレビュー

FILM REVIEW 下北沢映画祭2022small

2022年9月23日(金)~25日(日)に開催された下北沢映画祭2022(URL:https://shimokitafilm.com/)。

さまざまなカルチャーや表現活動が交錯する街・下北沢で行われる同映画祭は今年で14回目を迎える。

390作品から選ばれた9作品の魅力を紹介する。


【総評】

カルチャーが溢れる下北沢らしい作品ラインナップが魅力的だった。田舎の小さな学校の演劇部を追った『走れ!走れ走れメロス』が持つ熱量は圧巻で、まさに下北沢で上映されるべき作品だった。それとは対照的に、青春を駆け抜けきれなかった元演劇部員たちを描いた『再演』は大人になってもやり直せる希望を持たせてくれた。そんな素晴らしい仲間たちが居ない『永峰中村飯塚』に登場するような青年でも、優しい彼女が他人に興味を持つことの素晴らしさを教えてくれたことで、小さな一歩を踏み出した。まだ知らない誰かがきっかけをくれることもある。『最も無害で、あまりにも攻撃的』では初対面の女性との出会いが、本当の自分に気づくきっかけになった。一方で本当の自分を隠して親と付き合っていく彼女の姿は見ていてかなり苦しかった。『MY HOME TOWN』でも過保護な親に悩まされる娘を描いている。彼女は親と戦う道を選び、祖母のサポートもあり、自分の道を全うすることに成功した。辛いときに力をくれる誰か、その存在に目を向ける優しさが詰まった作品たちだった。

新しい表現方法を試みる作品の多さも際立っていた。鏡によって自分の顔が違って見える女性を描いた『サイドミラー』ではカメラと鏡の二重のフレーム構造で女性を描くアナログなアイデアが光っていた。そぎ落とされた表現で奇妙な世界を描く『CREATOR』はわずか6分で脳みそをフル活用させる内容だった。漫画と映画がコラボした『マンガガールズ』では、漫画と実写の二部構成という新鮮なスタイルを模索していた。逆に、縦型漫画に登場人物たちが居る構造をフォーマットとして利用した『17クラブ』はスマホにフィットした次世代の作品の可能性を感じさせた。こういった作品からインスピレーションを受けた作家たちがまた新しい表現を生み出していくのだろう。


【配信情報】

U-NEXTにて配信中(一部作品を除く)※本ページの情報は2022年10月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。


【各作品短評】※ネタバレあり

『サイドミラー』

監督:シェークMハリス

本当の自分を見つけ出す作業

自分の顔が鏡によって違って見える理江。これまで付き合ってきた男からもらった鏡たちの中でも、2番目の元カレにもらったサイドミラーが一番しっくり来るようだ。彼女の独特の感性は出会ったばかりの男には理解出来なかった。男はサイドミラーが理江を不幸にしていると決めつけ、叩き割ってしまう。男が抱いた勝手な妄想は、理江の怒りのお茶ぶっかけにより消えていく。一方で理江は鏡を手放すことにした。

カメラは独特な悩みを抱える理江を様々な鏡の中に捉える。観客の私から見ると彼女の顔はどの鏡に映っても同じように見えるのだが、本人にとっては違って見えるのだという。理解不能の悩みに隔絶された世界があることを知る。一方で、その悩みをどう解決するのかが気になる展開だった。半ば強引な決めつけで、鏡を叩き割ってしまったことは良くなかったが、理江はどの鏡でも同じ自分だと言ってくれる人を待っていたのかもしれない。だから、彼女は鏡を手放すことを決めたのかもしれない。だけど、これも私の勝手な妄想なので、心に留めて黙っておくのが吉かもしれない。


『永峰中村飯塚』

監督:桂木友椰

小さな革命が起きた一日の物語

フリーターの永峰は中村の誘いで、保険の営業をしている飯塚と再会する。永峰と飯塚は価値観の違いから口論になり、飯塚は帰ってしまう。
中村から外に意識を向けるように諭された永峰は改心し、中村の好きな食べ物を聞く。

他人に興味を持てない永峰が他人に興味を持ち始めた運命の日の出来事。中村が嫌いな上司がリフティングしているところを目撃していて良かった。そして、飯塚がコンプレックスを抱えていて、さらには怒って帰るような人間で良かった。そんな友人に囲まれていなければ永峰は永久に自分の世界だけで生きていたかもしれない。


『MY HOME TOWN』

監督:古川 葵

誰からも自由であれ

関西の団地で祖母と母と3人で暮らす照子。東京の大学に合格しているが、母からは反対され、度々喧嘩になってしまう。そんな悩みも幼馴染の司は聞いてくれる。彼は職場で暴力を振るわれているが、環境を変えようとしないのを照子は心配していた。久々に離婚した父親から連絡があり、父に東京の印象を聞くが、東京は良いところではないと言われてしまう。後に思い直した父からのエールで照子は東京行きの決意をより固いものにする。父親に会ったことを母に伝えると、母は激昂してしまう。かつて、父は自分達に暴力を振るった過去があった。それでも祖母は照子の東京行きを応援する。母も職場の上司と良い関係になり、照子が上京しても寂しくないと伝える。司は前向きに生きる照子を遠ざけるように、誰でも行ける大学に行くことに苦言を呈していたが、素直に寂しいと認め、彼女の東京行きを応援するのだった。

子離れも親離れも出来ない母に苦しめられるが、自分を曲げない照子。まさか幼馴染にまで、突き放されるとは予想もしなかっただろう。それでも、自分の環境を変えようとする彼女の粘り勝ちの物語だった。もちろん温かく見守ってくれる祖母の存在も大きく、最後には母に対しても「あんたらは離れた方が良い」と慰める姿が印象的。


『マンガガールズ』

監督:祁答院 雄貴、大門 嵩

出会いが新しい色を作る

漫画を描くことが好きなマコ。漫画に集中するため、1人になれる場所を探すが、何故かいつも邪魔が入ってしまう。遂に校長先生の車のトランクという安住の地を見つけるが、閉じ込められてしまう。通りすがり?のうみに助けられ事なきを得る。うみは絵を描いているらしい。マコは世界を共有出来る友達が見つかった。

漫画の世界では饒舌だが、現実世界では寡黙になってしまう。うみは偶然にもマコと同じ場所で絵を描き、知らず知らずのうちに2人の世界は繋がっていた。どんな偶然で未来が変わるのかは誰にもわからないけど、そういう偶然を見逃さずに生きていきたいと思う。


『17クラブ』

監督:森 翔太

マンガ+映画=〇〇

女子高生の七色はある日、1秒間時を戻せる能力があることに気づく。代償として、微妙な歴史改変が発生するが、この能力を楽しんでいた。しかし、親友の凛音と乗っているタクシーが事故に遭い、死の直前の1秒間を永遠に繰り返すことになるのだった。という小説を書き上げた七色は凛音に感想を聞く。凛音と同級生の藤城の恋を描いているため、酷評される。作品を完成させられないことを責める凛音と七色は喧嘩をしてしまう。インフルエンザで学校を休んだ七色。久しぶりに登校するが、凛音が学校に来ていないことを知る。ドッキリ動画で炎上したことが原因で、藤城も動画に映っていた。藤城に経緯を聞くと、凛音に恋心を抱いていた女子が藤城の本気の告白をドッキリとして茶化したらしい。公園で本を読む凛音に謝る七色だったが、凛音は親の海外転勤でもう会えないらしい。七色の書いた小説「17クラブ」はコンテストに入選した。七色は凛音と過ごした1秒1秒はかけがいのないものだと悟った。

MUBITOON(ムビトゥーン)というのかFILMIC(フィルミック)というのか、この表現フォーマットの名称は知らないのだが、表現の可能性を感じる作品だった。おそらくある程度のスペースがあればロケをする必要もなく、漫画は別チームで進められるので、制作手法としても効率は良いのかもしれない。コロナ下だからこそ生まれた手法なのだろう。


『走れ!走れ走れメロス』

青春が走り出す!

監督:折口慎一郎

島根県立三刀屋高等学校掛合分校の演劇同好会を追ったドキュメンタリー。全校生徒約70名の小さな学校で、4人の部員が演劇に打ち込む。舞台に立つのは僅か3名だが、顧問の亀尾先生の演出が各生徒のキャラにマッチし、オリジナリティ溢れる「走れメロス」が誕生した。

コロナの影響で校歌も歌えない学校生活を送っている生徒たち。たった4人で、演劇をやることすら、危ぶまれる状況で、彼らは演劇を始めた。もともと学校生活に希望を見出せず、演技も照明も未経験だった彼らの人生は亀尾先生の誘い一つで大きく変わった。お客さんがいる舞台に立つ、誰かに評価される。そんな初めての経験を楽しむ彼らの姿が羨ましい。

映画では描かれていないが、今年は続編となる「走れ!山月記」を一人芝居で行ったらしい。きっとそこにもドラマがある。人生は連続ドラマだと思い知らされる。


『再演』

継続が再演を呼ぶ

監督:土屋哲彦

捨てきれないプライドと痴情のもつれから高校最後の舞台を踏むチャンスを逃してしまった元演劇部員たち。亡き友が残した最後の脚本は、気がつけば毎日集まっていたあの日々のやり直す物語だった。責任のなすりつけあいで自然消滅した演劇部の1日限りのパフォーマンスは亡き友を送る熱いものになった。

俳優主体のクリエイティブ集団「ワークデザインスタジオ」が手掛ける映画製作と劇場公開を目指す取り組み『HAKUSHI PROJECT』の一作。演じることを諦めてしまった元演劇部員に巡ってきた”再演”のチャンス。それは封じ込めていた過去と向き合う辛さを伴う。一度は再演を諦めかけた彼らを引き留められたのは未だ演じることを続けている女性だけだった。諦めずに続けることが予期せぬ形で実る。このプロジェクトに関わるキャストの願いが込められたような作品。


『CREATOR』

監督:リキ・サトウ

超越的な存在の手中で踊る者たち

自分の複製が大量に存在する世界をさまよう男を描いた白黒無声ストップモーションアニメ。

大量の自分が存在する世界では無数の手に絡めとられる夢を見ていた男が二匹の猿と取引する。猿は男の複製を刈り取っていく。男は猿に金を返そうとする?が、猿に受け取ってもらえない。猿が作った脳みそが動き出し、巨大な手が男の居る世界を更地にしていく。男の人生をコントロールする超越的な存在が、その強大な力をもって世界にバランスをもたらしているような奇妙な世界観の作品だった。


『最も無害で、あまりにも攻撃的』

監督:中田江玲

※ぴあフィルムフェスティバル2022でもノミネートされています。

レビューはこちら


【受賞結果】

グランプリ
「MY HOMETOWN」(監督:古川 葵)

準グランプリ
「17クラブ」(監督:森 翔太)

下北沢商店連合会会長賞
『走れ!走れ 走れメロス』(監督:折口慎一郎)

小田急電鉄賞
『走れ!走れ 走れメロス』(監督:折口慎一郎)

京王電鉄賞
「17クラブ」(監督:森 翔太)

観客賞
「走れ!走れ 走れメロス」(監督:折口慎一郎)

審査員特別賞
「走れ!走れ 走れメロス」(監督:折口慎一郎)

審査員 前田弘二(映画監督)、直井卓俊(企画・配給プロデューサー)、大槻貴宏(トリウッド代表)、轟夕起夫(映画評論家)

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