【FILM REVIEW】『ぼくのお日さま』美しい映像、不憫なヒロイン

ぼくのお日さま

美しい映像、不憫なヒロイン

作品情報

『ぼくのお日さま』(日本/2024年/90分)

監督:奥山大史
脚本:、奥山大史
出演:越山敬達、中西希亜良、山田真歩、潤浩、池松壮亮、若葉竜也

配給:東京テアトル

2.7

あらすじ

カンヌ国際映画祭「ある視点部門」選出。『僕はイエス様が嫌い』の奥山大史監督の商業デビュー作。

北海道の田舎町に暮らすタクヤは、フィギュアスケートを習う少女さくらに恋をする。さくらのコーチの荒川は、タクヤがフィギュアスケートの練習する姿を見かける。タクヤにフィギュアスケートを教えることにした荒川は、タクヤとさくらにアイスダンスのペアを組むよう提案する。

感想

美しい構図

写真のお手本のような、日の丸や、線形を活かした構図とライティングで4:3の画面を構成している。特にスケーティングのシーンでは、窓から差し込む光によって、画面に幸福度が満ちて、タクヤとさくら、そして荒川の距離が縮まる様が効果的に演出されている。

多くは語らず?

冒頭、雪国育ちとはいえ、野球少年にしては、やけに色白な少年が映し出される。冬になり、タクヤはアイスホッケーのキーパーをやらされる。パックが直撃して、うずくまってしまうが、性格的に強く主張出来ず、それを受け入れてしまう。おそらく、野球の時も、のんびりした性格のため、ベンチに下がっていることが多く、あまり日焼けしていないのかもしれない。大人の事情ゆえか、意図的な省略か。微妙なラインだが、気になるポイントの一つだった。

不憫なさくら

もう一つ気になったのは、さくらの描写についてだ。
メインキャスト3人の内、最も葛藤を強いられるキャラクターがさくらだ。はじめに、突然、荒川が連れてきたスケート始めたての男子とアイスダンスのペアを組まされる。この葛藤は純粋にスケートを楽しむことで解消される。次に、母親がアイスダンスについて苦言を呈してくる。アイスダンスが楽しくなってきた矢先に向けられるこの言葉は、さくらの心に傷をつけたはずだ。

その後、さくらは荒川が恋人の男性・五十嵐と車内でいちゃついてるところを目撃する。後日、荒川に「タクヤのことが好きなんですか?男に女のスポーツやらせて楽しんでるんですか?気持ち悪い…」と痛烈な一言を浴びせるさくら。

ここに至るまでに様々な事情があったのではないだろうか。もしかすると、荒川と男がいちゃついてた話をさくらが自宅で話し、母親が「気持ち悪い」と言ったのかもしれない。さくらが、荒川かタクヤに好意を寄せていたことが原因で、つい出てしまった一言だったのかもしれない。真相はわからないが、「どのようにとっていただいても構いません」というスタイルでは片付けられない「良くない省略」が発生してしまっているように感じた。

ラストシーンは、タクヤ視点で考えると、内気なタクヤがさくらと荒川に出会ったことで、想いを伝えられるように成長したように受け取れる。

しかし、さくら視点でいけば、何かを言われるのを待ち、主張しない存在に留まっている。痛烈な一言以降、さくらが登場するのは、1人でスケーティングをするシーンのみなので、さくらが何を思ってタクヤの前で立ち止まったのかが見えにくい。悪く見ると、ただの嫌な子にも見えてしまう。

真っ直ぐに恋をしているタクヤを応援したくなって、さくらと引き合わせた荒川は、街を去ってしまう。2人にひと冬の思い出を残したことは良かった。しかし、あの一言以降、荒川はさくらに何かしてあげたのだろうか。母親の言いつけを守ってさくらには会わず、街を去ったのだとすれば少し無責任な最後に思える。

タクヤは成長したが、さくらはその物語の犠牲になっているようにも受け取れてしまい、複雑な気持ちになる内容だ。

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