【FILM REVIEW】『リッチランド』本当に豊かな街とは

リッチランド

本当に豊かな街とは

作品情報

『リッチランド』(アメリカ/2023年/93分)

監督:アイリーン・ルスティック
配給:ノンデライコ

4

あらすじ

第二次大戦下、先住民の土地を接収して作られた核燃料製造拠点ハンフォード・サイト。そこで働く人々のために作られた街リッチランド。長崎に投下された原子爆弾”ファットマン”の原料を製造したリッチランドに暮らす人々と原子力がもたらしたものを伝えるドキュメンタリー。

感想

戦争を終わらせた街リッチランド

本作で語られるリッチランドとはどういった街なのか。そのアイデンティティを語るために用いられるアイテムの一つが、地元高校の校章にもなっているRの文字と背景に浮かぶキノコ曇だ。

多くの日本人にとって、大量殺人の象徴であるキノコ曇。そして、フットボールチームのユニフォームにあしらわれた爆撃機はかなりグロテスクなコメディに感じられる。しかし、リッチランドではこの校章に疑問を感じる人は少ない。

なぜなら、リッチランドに暮らす人々にとって、戦争を終わらせるための核兵器を作ったことは名誉なことであり、それを批判することは自分たちのアイデンティティを批判することに繋がっているからだ。

原爆正当化論

アメリカでは原爆正当化論が根強く、政治家など、権力者が原爆正当化論を唱え、被爆者団体が抗議することが度々起きている。本作にも第二次大戦に参加した老人が登場し、その論理を語っている。「原爆のおかげで、戦争が終わった。先に戦争を仕掛けたのは日本だ」、この論理には確かに一理あるように思える。

『オッペンハイマー』(2023)でも語られるように、原爆開発はナチスとの競争だった。原爆を持った国が世界の覇権を握る切迫した世界情勢の中で、アメリカは原爆を開発せざるを得なかった。そして、戦争の早期終結、原爆実験、国力誇示など、様々な思惑が混ざり合う中、原爆が投下された。

戦争終結という点だけで見れば、確かに原爆投下は効果があった。しかし、原爆が残したのは現在まで続く核再使用の恐怖と、数万年後まで残る有害な核燃料など、平和な世界に歯止めをかける負の遺産だった。

本当に豊かな街とは

かつては豊かな生活と、原爆正当化論が自分たちのアイデンティティを守ってくれた。しかし、核兵器廃絶の流れが進み、リッチランドの人々は自分たちの
アイデンティティに再び目を向けなければいけなくなった。

広島と長崎の被爆者だけではなく、リッチランドを作るために、土地を奪われた先住民たち、出生直後に死んでいった大勢の子どもたち(政府は被爆を認めていない)、被曝によって亡くなった原子力施設の作業員など、多くの犠牲のうえに、豊かな街リッチランドが成り立っている。

そんな核兵器の街で、核兵器反対の態度をとるリベラルな学生たちが母校の校章について語るシーンには希望が見える。これまで失敗が続いていた校章変更について、キノコ曇はNG、原子論については評価すべきなど、率直な意見を交わす。中でも重要だと感じたのは、「多くの反対が叫ばれても、自分たちの意志を曲げないことが重要」という意見だ。

前述のように、時代背景によって核兵器にNOを叫びづらい時もある。しかし、それでもNOといえる自分であることが重要だ。物事の本質に目を向け、流れに逆らい、自分の意見を主張する。そういった人々が集まれば、流れは変えられるかもしれない。

犠牲の上に成り立つ豊かさではなく、誰もが認める豊かさを考えられる人が生きる場所こそ本当に豊かな街だと私は思う。

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