民主主義とは何か
作品情報
『私たちの青春、台湾』(台湾/2017年/116分)
監督:フー・ユー
出演:チェン・ウェイティン、ツァイ・ボーイー
配給:太秦
3.7
あらすじ
2014年の台湾。中国と台湾間の市場開放を目的とした海峡両岸サービス貿易協定に反対した学生たちが、立法院を占拠し、審議のやり直しを要求する”ひまわり学生運動”が展開された。指導者の1人、陳為廷(チン・ウェイティン)と中国大陸からの台湾留学1期生、蔡博芸(ツァイ・ボーイ―)を中心に、学生運動の帰結を追ったドキュメンタリー。
おすすめポイント
台湾の民主主義
日本で”学生運動”といえば、1960年代に始まった全共闘のイメージが強い。国を変えようという意志で、塊となった学生たちが過激な行動で傷つくことも厭わず、より良い未来のために、訴えを起こす圧倒的熱量を伴う運動、そんなイメージだ。しかし、経済成長と共に、それも過去の出来事になってしまったように思う。実際、自分の学生時代は学生運動を行っている人は身近に居らず、デモ行進などが主流だったように思う。
台湾で、ひまわり学生運動が起こったのは2014年。民主的プロセスを経ずに海峡両岸サービス貿易協定が批准されようとしていることに反発しての出来事だった。当時の台湾総統だった国民党の馬英九の強引な進め方は、学生たちにとって民主主義の危機を意味していた。彼らは台湾の民主主義を守るために、ひまわり学生運動を展開した。次期政権が民進党の蔡英文になり、政権交代が為されたのは、ひまわり学生運動で民主主義が訴えられたことも少なからず関係しているといえるのではないだろうか。
民主主義の功罪
この作品では立法院占拠後に学生たちが痛感した民主主義を実践する難しさにも焦点を当てている。運動の展開は立法院内の限られた学生たちの会議で決定され、外にいる支持者の意見をないがしろにしてしまう。民主主義を訴えて起こした運動で、民主主義の欠点を知ることになる。全員が納得する民主主義がいかに困難なことなのか、学生たちは運動を通して理解するのだ。
また、指導者の1人、陳為廷(チン・ウェイティン)と中国大陸からの台湾留学1期生、蔡博芸(ツァイ・ボーイ―)は両者とも、選挙戦で苦い経験をする。陳為廷は学生運動を通して、スターになり、立法委員補欠選挙に出馬する。しかし、過去の痴漢歴が報道され、余罪が次々と出てきたことで、スターから一転して、痴漢常習者として見られるようになってしまう。結果として、陳為廷は出馬を辞退し、アメリカ留学の準備を始める。
蔡博芸は中国大陸出身で台湾の学生運動に参加する稀有な存在であり、注目度も高い。そんな彼女が学生会会長選に立候補したが、大陸籍という理由で、選挙管理委員会や対立候補が選挙を成立させないように画策する。民主主義を実践するのであれば、どの候補者を選ぶかは、市民に委ねられるべきであるが、選挙自体が行われないのであれば、市民は選びようがなく、民主主義が成立しないのだ。
民主主義の前では候補者は皆平等である。というのは理想主義的かもしれない。過去の汚点も明るみに出し、出自がどこであれ胸を張って立候補する。しかし、選ぶのは市民である私たちだ。候補者がどんな人物なのか、それは自分の考える未来にとって良い影響があるのか、悪い影響があるのか。それらを自分の頭で考えて、誰のことも気にせず、自分が理想とする未来を実現できそうな候補者に投票する。そんな民主主義は、なかなか実現しないということは本作を見れば、明らかだ。一方で、その理想を諦めてはいけないと思わせてくれるのも本作なのだ。
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