【FILM REVIEW】『バティモン5 望まれざる者』実話を元にした強制退去を巡る行政VS住民の戦い

『バティモン5 望まれざる者』

実話を元にした強制退去を巡る行政VS住民の戦い

作品情報

『バティモン5 望まれざる者』(フランス、ベルギー/2023年/105分/原題:Bâtiment 5/Les Indésirables)

監督:ラジ・リ
脚本:ラジ・リ、ジョルダーノ・ジェデルリーニ
出演:アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー、オレリア・プティ、ジャンヌ・バリバール
配給:STAR CHANNEL MOVIES

3.3

あらすじ

フランス、パリの移民が集まる地区の一画にある住宅棟”バティモン5″。その爆破解体でショック死した市長に代わり、経験に乏しいが、”クリーン”と評価される小児科医のフォルジュが市長に就任した。住民課で働くアビーは移民たちの相談を受ける傍ら、自らもバティモン5に暮らしており、退去勧告を受けていた。強引に住宅からの立ち退きを進める行政と住民たちとの戦いが始まる。

おすすめポイント

衝撃の実話

あまりに横暴な行政のやり方に、これはやり過ぎなフィクションなのか?と思ったが、これは実際に監督自身が見聞きした出来事だとインタビューで語られている。

以下引用
—『バティモン5 望まれざる者』は監督の実体験から着想を得たんでしょうか?

ラジ・リ監督:『レ・ミゼラブル』と同じく、この作品で描かれていることも私が実際に見聞きしたことがベースとなっています。私の両親もバティモン5の住人のように高金利でマンションを購入し、支払いを終えたタイミングで建物の劣化を口実に追い出されてしまいました。「危険だから」と数時間以内に自宅から去るように言われることも現実にあった話です。このような出来事はパリ郊外のみならず世界各地で起きています。
出典:https://www.cinra.net/article/202405-block5-ladjly_iktay

これほど無謀な行政の暴走が”哲学の国”フランスで起きるとは信じ難く、現実の出来事だということにただただ衝撃を受ける。これも民主主義の結果であるが、この不完全さを修正していくことも民主主義だから為せることだ。

新しい民主主義を支える政治家像

エレベーターも動かず、棺桶を降ろすこともままならないような住宅であっても、そこは彼らが長年暮らしてきた愛着のある家だ。しかし、急遽臨時市長になったフォルジュには彼らの気持ちはわからず、黒人層からの支持が厚く、住民の気持ちを理解していたロジェも、結局はフォルジュの強引なやり方を止めることは出来なかった。

バティモン5に限っていえば、住民課で移民たちの相談を受けてきたアビーこそ、対話と行政を担当出来る人財といえる。彼女は住民を率いて決起集会を行い、市長選への立候補を表明した。住民側の立場になって考えられる政治家は常に望まれているが、そうそう現れないのが現実だ。しかし、少しの希望に賭けるのであれば、まずは対話を出来る人物になるだろう。過激な反抗を始める恋人のブラズに対して、アビーは「衝突からは何も生まれない」と繰り返し諭す。まずは対話をする姿勢をとることを重視するアビーだからこそ、ブラズの凶行を止めることが出来たともいえる。新しい民主主義をリードするのは、痛みを共有し、対話が出来る人財になっていくだろう。

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