故郷を離れて北海道へ。度重なる悲劇に心が荒む
作品情報
『家族』(日本/1970年/107分)
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、宮崎晃
出演:倍賞千恵子、井川比佐志、笠智衆、前田吟、富山真沙子、春川ますみ、寺田路恵、三崎千恵子、塚本信夫、梅野泰靖
配給:松竹
あらすじ
1970年の日本。長崎の炭鉱で暮らす風見精一と妻・民子は、貧しい生活から抜け出すため、まだ幼い子ども2人と祖父と一緒に、開拓民となるため、陸路で北海道を目指す。地元の人々からのカンパを頼りにした、余裕のない旅路を行く風見一家。彼らを待ち受けているのはEXPO70で湧く大阪や、大都会・東京、そして予期せぬ悲劇だった。
おすすめポイント
山田洋次がこんな撮り方をするとは!
原作・監督は日本が誇る巨匠、山田洋次。本作公開の前年である1969年には、同監督が原作で、のちに全50作の大ヒットシリーズとなる『男はつらいよ』が公開された。今や知らぬ人はいないほどの名監督である山田洋次は、松竹の所属ということもあって、撮影所での撮影がメインかと思っていたが、この作品がその固定観念を打ち破った。
本作は『故郷』(1972)、『遙かなる山の呼び声』(1980)と続く民子三部作の一作目である。この三部作は、故郷を離れて新天地に向かうというロードムービーの要素が強い。撮影所では、そのロケーション全てを賄えないため、ロケでの撮影がメインとなっている。特に本作『家族』については、EXPO70で湧く大阪の街並みがそのまま映像に残っており、ドキュメンタリーの要素も含まれている。長旅の疲れが出る中、一生に一度の思い出に、大阪万博へ行ったはいいが、人並に揉まれてベンチで休む。そんな風景が、演技と現実の境界を溶かしていく。高度経済成長期の日本の姿を納めた貴重な映像も本作の見どころの一つと言えるだろう。
過酷すぎる物語
山田洋次といえば、人間喜劇の名手であり、悲しい物語の印象は薄い。しかし、本作は単に、のほほんとした家族のドタバタロードムービーではない。解消無しな夫・精一が度々、判断をミスしてしまい、家族はどんどんと悪い方向に流されてしまう。ほんの観光のつもりで立ち寄ったEXPO70が恐ろしい悲劇の始まりとなってしまう。
その悲劇が原因で、これまで家族をまとめてきた民子は茫然自失となってしまい、夫の精一が家族を立て直す役割を担うことになる。しかし、肝心なところで精一は自己保身に走ってしまう。唯一の頼りは、笠智衆演じる祖父の存在であり、彼が居なければ、北海道に行くことは到底不可能だっただろう。それにしても、笠智衆という役者はどうしてこんなに、好々爺を演じるのが上手いのだろうか。いや、演じるというより、素で好々爺なのだろう。
優しい祖父の助けも借りて、遂に北の大地、中標津町に着くのだが、悲劇はまだ終わらない。この第二の悲劇に関しては、なぜこんな展開にしてしまったんだ…と恨み節を言いたくなってしまう。しかし、タイトルにもある通り、「家族」というテーマを考えると、このラストがあって、やっと自立した家族の形になったと考えられる。一味違った山田洋次の世界を観たい方には必見の作品だ。
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